本記事では、分光分布という言葉に注目が集まっている背景や、実際の製造・検査の現場で起こりやすい「色の見え方の違い」についてわかりやすく解説していきます。
照明環境によって「同じ製品なのに違って見える」という現象は、色に関わる業務では大きな問題です。
たとえば以下のような現象に心当たりはありませんか?
・昼と夜で、検査品の色の見え方が異なる
・作業者によって、合否判断にばらつきが出る
・お客様から「届いた商品の色が色見本と違う」とクレームが来る
これらの原因は、単に「光量」や「明るさ」の違いだけでは説明がつきません。光を構成する波長の違い、つまり分光分布が大きく関係しています。
そもそも私たちは、「物体を照らす光の反射」によって色を認識します。つまり、光源が違えば同じ色であっても違う色に見えてしまいます。
本記事では、分光分布の基本から実際の測定方法を詳しく解説していきます。色が違って見える原因について詳しく知りたい方は、分光分布をもとに解説している以下の記事もぜひご覧ください。
分光分布とは、「光を波長ごとに分けて、各波長がどれくらいの強さで含まれているかをエネルギー比率で表したグラフ」です。光は単なる「明るさ」ではなく、波長という性質を持っています。波長ごとのエネルギー量の違いが、製品の色見や見え方に大きな影響を及ぼします。
たとえば、太陽光の「白い光」は、一見すると“白色”という単一の光に見えますが、実際には赤・橙・黄・緑・青・藍・紫といったさまざまな波長の光が含まれています。
虹が現れるのは、太陽光が大気中に浮遊する雨粒などの水滴に入り、波長ごとに異なる角度で屈折して光の色が分かれて見える現象です。分光分布は、分光計といった特殊な測定器を用いることで、光の波長ごとのエネルギーを数値化・グラフ化したものです。
このグラフを読み解くことで、光源の性質を正確に把握でき、適切な照明選びや色彩評価に活用することができます。
ここでは、分光分布の考え方や分光分布グラフが具体的に何を示しているのかを詳しく解説します。
たとえば、CDやシャボン玉に太陽の光を当てると、表面に虹のように色とりどりの光が見えます。分光分布とは、光を波長ごとに分けて各波長のエネルギーの割合を示したものです。
下のグラフは自然太陽光の分光分布図になります。
自然太陽光はさまざまな波長の光が混ざり合ったものですが、人の目にはそれらが統合されて白色の光として知覚されます。これは、人間の視覚が三種類の錐体細胞で光を感じており、それぞれがバランスよく刺激されたときに白色として認識されるためです。
見た目には白一色に見えていても、自然太陽光の波長エネルギーの内訳を示す分光分布を確認すると、複数の波長成分が含まれていることがわかります。
また、分光分布図では、横軸・縦軸で次のような情報を読み取ることができます。
横軸(波長:mm)
光の色を決める要素であり、以下のように分けられます。
・短波長:紫〜青(380〜500nm)
・中波長:緑〜黄(500〜600nm)
・長波長:橙〜赤(600〜780nm)
縦軸(相対放射照度:%)
各波長の光の強さ(エネルギー量)の比率を示します。高いほどその波長の光が多く含まれています。
このように分光分布図を使うことで、どの波長の光が多く含まれているか、あるいは少ないかといった波長ごとのバランスを視覚的に把握できます。これにより、用途や目的に応じて、必要な波長成分が十分に含まれているかどうかを確認できます。
目に見える光(可視光)は、約380〜780nmの範囲に分布しており、この波長のバランスが光源の色再現性や色によって人が受ける視覚的な印象に影響を与えます。
たとえば太陽光は、この範囲のエネルギー分布がなめらかにバランスよく含まれているため、自然な色再現が可能です。これを「連続スペクトル」といい、色評価や検査基準において理想的な光源とされています。
一方で、一般的な蛍光灯やLED照明は特定の波長エネルギーが強く出ますが、他の波長がほとんど含まれない場合があり、分光分布が不連続または一部の波長に集中していることがあります。
このように波長が均一でない場合、製品の色評価やセンサ精度、さらには人が受け取る印象にも影響を与えます。たとえば赤の波長が不足すれば、製品は青白く冷たい印象に、青の波長が不足すれば、黄色や赤みが強くなってしまいます。
ここでは、分光分布の違いが実際にどのような影響を与えるのかを「ブルーライトによる視覚・生体への影響」「太陽光とLEDの色再現性の違い」という2つの観点から解説します。
分光分布は、単に光の「色の違い」だけでなく、作業環境や製品品質、さらには人体への影響にも関わる重要な要素です。
ブルーライトとは、波長がおよそ380〜500nmの短波長の可視光を指します。
下のグラフは青色LEDの分光分布図です。
440~500nmの波長エネルギーが強く出ており、他の波長がほとんど含まれていないことから、分光分布が特定の波長に集中していることが分かります。
青色光は波長が短く、角膜や水晶体で吸収されにくいため、網膜まで届きやすい性質があります。
特に、スマートフォンやLEDディスプレイなどに使用される白色LEDの多くは、青色LEDと蛍光体を組み合わせて白色発光させているため、分光分布において青色の波長に鋭いピークが持つのが特徴です。
自然太陽光にもブルーライトが含まれますが、自然太陽光の下では「まぶしさに応じて瞳孔が絞られる」「瞬きが増える」などの生理的応答が働くため、必ずしも目に悪影響を及ぼすわけではありません。しかし、ディスプレイの場合は、ブルーライトを発する画面を至近距離かつ長時間、まばたきの減った状態で見るため、視覚的負担が生じやすくなります。
こうした条件下では、以下のような視覚的・身体的影響が生じやすくなるとされています。
・目が疲れやすくなる(眼精疲労)
・長時間の作業で集中力が低下しやすい
・体内時計が乱れやすく、睡眠に影響を与える可能性がある
ブルーライトはメラトニンの分泌を抑制することが知られており、特に夜間に浴びると睡眠の質の低下を招く可能性があります。
太陽光は、可視光全域(約380〜780nm)を連続的に含む「理想的な光源」とされています。自然界の光である太陽光の分光分布は、波長ごとのエネルギーがなめらかに分布しており、赤・緑・青といったすべての色の光がバランスよく含まれています。これを「連続スペクトル」と呼び、演色性(色の再現性)において最も優れた基準光源とされています。
一方、LEDライトは分光分布において特定の波長成分が強く現れる傾向にあり、主に青色LEDと蛍光体の組み合わせで白色を作り出しています。そのため、自然太陽光の分光分布とは大きく異なります。
この違いは、以下のような場面で明確に現れます。
・印刷物の色がくすんで見える
・LED照明下で確認した塗装の色味が、納品後に自然光で見ると異なって見える
・テキスタイルや化粧品の色味が照明環境によって異なって見えることで、「想像していた色と違う」と指摘される
分光分布は、光の性質を定量的に把握するために欠かせない指標です。光源が「どの波長を、どれだけの強さで含んでいるか」を正確に測定することで、色の見え方や演色性を科学的に評価できます。
そこでこのパートでは、色評価における標準光源の定義と、実際に分光分布を測定する方法・活用例をご紹介します。
光、照明、色、色空間などを規定する国際照明委員会では、色を見るための照明の基準としてD65光源とA光源を一次標準光源として定めています。日本において色を見る標準光源は、二次標準光源のD55が一般的で、自然太陽光に近い極めて近い光源が採用されています。
そのため、「正しい色」とは、国際的な標準光源(たとえば自然太陽光に近いD65光源など)下で確認された基準色を指します。
下の画像は、光源による色の見え方の違いを表しています。
コーラルピンクのドレープを4種類の光源で照らしたところ、自然太陽光に極めて近い光源である人工太陽照明灯SOLAXと人工太陽照明灯SOLAX-iOは、自然太陽光で照らした時とほぼ同じ色に見えます。
分光分布は、「分光放射計(スペクトルアナライザー)」という専用の測定機器を使って調べます。機器を光源に向けて測定することで、波長ごとの光の強度をグラフとして可視化できます。
得られる代表的なデータは次のとおりです。
・分光分布グラフ(380〜780nm)
・CRI(演色評価数)=色の再現性の高さ(数値が高いほど自然に見える)
・CCT(相関色温度)=光の色味(暖色・昼光色など)
これらをもとに、照明の選定や検査環境の適正化が可能になります。
分光分布データは、製造現場や検査工程において「色の見え方」を安定させ、評価のばらつきを抑えるための重要な指標です。ここでは、照明の選定や品質検査における実際の活用例をご紹介します。
• 色彩評価や外観検査に最適な光源の選定
光源の分光分布を確認して、正確に評価・検査ができる光源を選定する
• 工場や検査室の照明環境の整備
工場や検査室の照明環境を測定データに基づき整備して、作業者の見え方を均一化する
• 撮影・商品展示時の照明環境の最適化
商品撮影用の照明や展示ブースの照明の分光分布を測定し、そのデータをもとに照明環境を最適化することで、商品画像の色味と店舗での商品の色味の誤差を減らす
• 海外輸出向け製品の評価基準統一(ISO/JIS対応)
評価用光源の分光分布を確認し、海外輸出向け製品の評価基準を統一する
このように、分光分布の測定は「見た目の品質」を定量的に管理するための基本データとして、製造・品質管理・デザイン分野を問わず幅広く活用されています。
ここまでお伝えしてきた通り、色の評価において最も重要なのは「光の質」です。
製品そのものが持つ“本来の色”を正しく見るには、光の分光分布が自然太陽光にどれだけ近いか、つまり「色を正しく見るための光」であることが鍵を握ります。
一般的に、色評価には以下のような光源が適しています。
・色温度が太陽の5000~6000Kに近い
・十分な明るさ(2000ルクス以上)
・太陽に近い高演色(100に近いこと)
・長時間使用でも安定した出力(ちらつきが少ない)
こうした条件を満たすのが「人工太陽照明灯」です。
太陽光に近い分光分布を人工的に再現し、どんな時間・場所でも安定して色を正確に見られる照明として評価されています。
自然太陽光に限りなく近い光を出すSOLAXは用途に合わせてモバイルから大光量大型タイプまでバリエーション豊富にご用意しています。
「照明を変えること」が、製品品質はもちろん、企業価値そのものを引き上げる第一歩となるかもしれません。詳しい製品情報や導入方法については、以下の製品ページをご覧いただき、お気軽にお問い合わせください。