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冬の日照時間減少による体への影響

太陽先生の豆知識「冬の日照時間減少による体への影響」

秋分も過ぎ、冬至に向けて日照時間が日々短くなってきています。

人間は日光を浴びる時間が短くなると、様々な障害が生じると言われています。いったいどのようなことがヒトの体に起きるのでしょうか?ビタミンDの不足、自律神経や体内時計の乱れ、季節性(冬季)うつなど、心身両面における障害の発生が危惧されています。これらの原因と対策は様々なサイトで紹介されていますが、ここではビタミンDの不足に特化して深掘りしていきます。

問題視される日本人のビタミンD不足

近年、日本人のビタミンD不足が問題視されています。
日本経済新聞2023年6月7日付の記事によると、慈恵医大などの調査チームが2019年4月~2020年3月に都内で健康診断を受けた成人男女約5500人を対象に実施した調査で、全体の約98%がビタミンD不足であることが判明した、と報じられています。この記事では、冬季に限定されているわけではないのですが、日常的にビタミンD不足であることが指摘されています。特に都市部の生活では日光を充分に浴びることが難しく、また、日焼けを嫌がるがゆえにUVカットの化粧品や日焼け止めクリームの使用によりビタミンDの生成が少なくなってきている、という指摘です。

また別の調査では、夏にはビタミンDは充足傾向だが、冬には欠乏傾向になると発表されています。
東海地方に住んでいる健康な20歳から68歳(平均年齢43.4歳)の197人を対象とした調査によると、血中のビタミンD欠乏状態の割合は、3月、6月、9月、12月にそれぞれ87%、33%、1%、26%と報告されています。夏場にはビタミンD欠乏状態の人は1%しかいないのに、冬場になると87%に激増する、という結果です。ビタミンDは水溶性ビタミンのため長期間体内にとどまる性質があり、7~8月にかけて日射によって生成されたビタミンDは9月になっても体内に留まっている、と考えられます。また、30歳未満の若い女性の方が30歳以上の女性よりもビタミンD不足に陥りやすい、その理由は魚をあまり食べない食生活やダイエット習慣が原因として考えられる、と結論付けています。

他にも、冬季に妊娠中の女性がビタミンD不足だった場合、新生児のビタミンD欠乏につながる可能性があり、状況によっては乳児のビタミンD欠乏性くる病の原因になるなど、ビタミンD不足は大きな問題になってきています。

ビタミンDと日光の関係

さて、ビタミンDと日光にはどのような関係があるのでしょうか。

天然由来のビタミンDは、キノコなど植物由来のビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と、魚類の肝臓や魚肉、卵黄由来のビタミンD3(コレカルシフェロール)に分類されます。ビタミンD2とビタミンD3は構造の一部が異なる同族体ですが、通常まとめてビタミンDとして扱います。またビタミンD3は、体内においてコレステロール生合成の最終中間体である7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)から生成されます。皮膚に存在する7-デヒドロコレステロールが紫外線(Ultra-Violet : UV)を受けると、プレビタミンD3となります。プレビタミンD3は体温で構造が変化し、ビタミンD3となります。

ビタミンDの生成メカニズムと体内での代謝の様子を下図に示します。

太陽先生の豆知識「冬の日照時間減少による体への影響」

出典:国立環境研究所WEBサイト

ビタミンDはカルシウムの吸収を高め、骨の形成において重要です。筋肉の維持に不可欠であることも報告されています。また最近の研究では、ビタミンDが一部のがんに対し抗がん作用を持つ可能性や、免疫応答の調整因子として働くことで感染症予防に寄与する可能性が報告されています。

食事によるビタミンD摂取と日光浴によるビタミンD生成の両方が大変重要なのですが、食生活の変化に伴って魚を食べなくなったり、日光(特に紫外線)の皮膚への影響を過剰に怖がったりすることでビタミンDが不足している事態になっています。

地球環境研究センターのサイトでは、推奨される日光照射時間(太陽の光に肌を当てる時間)が謳われています。ここでは、日本各地11地点における各月上・中・下旬10日ごとの、半そで(皮膚の露出面積:1200㎠)、長そで(皮膚の露出面積:600㎠)でのビタミンD生成に必要な日光照射時間(分)と日焼けのリスクになる時間が分かるサイトが紹介されています。
参照:地球環境研究センターWEBサイト(モバイル版)

前述の11地点は日本列島にバランスよく配置されているわけではないのですが(西日本の観測地点が少なく東日本は多い)、本書をお読みになっている皆様のお住まいの緯度が近い地点を選択して頂くと参考になると思います。但しそれぞれの地点の気象状況、気象予測も日照時間に反映されていますので、その点は注意が必要です。

もしご興味がおありでしたら、ぜひのぞいてみてください。

ビタミンD不足は、健康な生活を営む上でのリスクです。食事やサプリメントでの摂取と共に、適度な日光浴が大切だということは既に世間の常識になっています。これから日照時間が短くなりますので、積極的に日中の日光を浴びるようにしましょう。特に雪国は冬期の日照時間が極めて短くなります。晴れている日は外に出て、たっぷり日光を浴びることをお勧めします。

<参考文献>
日光によるビタミンDの生成(国立環境研究所・地球環境研究センター 中島英彰様)
ビタミンDとは?(国立環境研究所コラム)
・光と生命の事典(日本光生物学協会 光と生命の事典編集委員会)
地域在住虚弱高齢者のビタミンD濃度の分布状況とビタミンD濃度と生活機能・身体機能との関連
 (奥野純子様、戸村成男様、柳久子様 日本老年医学会雑誌44巻5号)

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